16.その男ショーター・ウォン③
ショーターは偶然にも半年ほど前にボクシングジムで
見かけた(あの黒髪の女)マリアと知り合いになり
天にも昇る気持ちだ
まさかこんな形で・・・再会できるなんて
ショーターは足げに彼女のところへ通う
「よ、どーだい具合は?」
「あ、もう大分いいよ。あんたには世話になったね。
ところで姉さん料理うまいねえ。」
「ああ、チャイナタウンでレストランやってっからさ、
また食いにきてくれよ」
ショーターはどちらかというと殺風景なマリアのアパートメント
の部屋に不釣り合いなものを見つけた
絵本だ
ショーターはどきりとした
(そーだな、俺はまだマリアのことをなんにも知らねー)
一冊取り出しぱらぱらめくりながら
「なー、あんた子どもいるのか?」
マリアはショーターにコーヒーを淹れようと、袋から
コーヒーメーカーに挽いた豆を移そうとしていたが
手元がくるいテーブルにぶちまけてしまった
彼女は震える手で粉をかき集め紙袋へ捨てる
ショーターも一緒にテーブルを片付ける
(悪いこと聞いちまったのかな・・・)
「コーヒーいいよ。ありがとう。
そのう・・・困ったことがあったら連絡くれよ
俺のことがイヤだったら姉貴にでも・・・
女同士の方がいいときもあるよな。
これ店の住所と電話番号」
マリアはうなずきショーターを玄関まで見送ると
部屋の鍵をガチャリと閉め、その場にしゃがみこんだ
その途端、嗚咽がこみあげてきた